北朝鮮帰国事業裁判弁護団

北朝鮮帰国事業について、北朝鮮政府の責任を問う裁判の弁護団です。

弁護団からのメッセージと支援のお願い

 

 

人生を奪った「北朝鮮帰国事業」

 弁護士の白木敦士と申します。北朝鮮帰国事業について、北朝鮮政府の責任を問う訴訟の代理人の一人です。

  この度、脱北者の方々を代理の上で、北朝鮮政府を被告として民事訴訟提訴をするに至りました。1959年から1984年にかけて実施された北朝鮮帰国事業の違法性を問う訴訟です。当時、北朝鮮は、日本にいる原告の方々及びそのご家族に呼びかけて、北朝鮮は差別のない幸せな国であり、大学まで無償で保障される、食べるものも、着るものも、寝る場所も、全て満足いくように提供される、まさに「楽園」であると嘘をつきました。北朝鮮帰国事業というのは、原告及びそのご家族をだまして北朝鮮に渡航させた上、日本に帰国することを許さず、北朝鮮という巨大な監獄に約40年も監禁し続けました。

 北朝鮮による事件というと拉致問題を思い浮かべる方は多いと思います。拉致とは、被害者に対して、物理的な強制力を用いて、北朝鮮にという国に出国させたという事件です。これに対し、北朝鮮帰国事業は、被害者を騙すという方法を用いて、北朝鮮に出国させたという事件です。これらは何れも、被害者の真意に反して、北朝鮮に連れ出して監禁を継続する、国家的誘拐行為というべき犯罪行為であるという点で全く同じです。

  北朝鮮へ誘拐された当時、川崎栄子さんは17歳、榊原洋子さんは11歳、高政美さんは3歳、齋藤博子さんは20歳、石川学さんは14歳でした。

 北朝鮮帰国事業は、本訴訟の原告らとの関係では、20歳の女性、3歳の幼女、11歳、17歳の少女、14歳の少年が、それぞれ被害者となった誘拐事件に他なりません。

 原告は以来約40年間にわたって、日本に戻ることを許されず、北朝鮮という巨大な監獄の中での生活を強いられてきました。原告の中には、その過酷な監獄の中で、新たないのちに恵まれた者もいました。原告らはみな、自身やその家族のいのちを一日、一日と繋ぎとめてきました。

 原告らは、北朝鮮を「違法」に逃げ出した、いわゆる脱北者の方々です。誘拐当時20歳だった齋藤博子さんは77歳、17歳であった川崎栄子さんは76歳、11歳であった榊原洋子さんは68歳、14歳であった石川学さんは60歳、3歳だった高政美さんですら57歳となりました。みな、誘拐の犯人である北朝鮮に対して、自身らの人生を返してほしい、違法行為の責任をとってほしいと切に望んでいます。

原告の覚悟

  原告らの中には、家族を北朝鮮に残してきた方もいます。

 弁護士である私も、「こんな訴訟を提起して、原告の方のご家族は大丈夫なの?」と周囲の同業者や記者さんから、よく聞かれます。当然の疑問です。実は、私自身も同じ疑問を抱いています。

 私は訴訟提起に際して、北朝鮮による壮絶な人権侵害行為の実態を初めて知るに至りました。私が知っている限りの表現に結び付けて言えば、原告の方から伺う北朝鮮の実態は、日本では当然の自由が全て否定されている、映画で見たアウシュビッツの強制収容所そのものでした。私自身、北朝鮮国内における事実を知るにつれて、「こんな訴訟を提起して、原告の方のご家族は大丈夫なの?」という当初の疑問は、ますます強まりました。この疑問に対する答えは簡単で、北朝鮮に残されたご家族が大丈夫などという保証など一切ありませんし、北朝鮮のことですから、政治犯収容所への収容も含め、どのような仕打ちがなされても不思議ではありません。実際、原告の方々は、誰よりもこのことを分かっています。

 他方で、原告の方々は、このままでは何も変わらないことも、誰よりも分かっています。特に、原告の中心である川崎さんのお子さん、お孫さんは、未だこの北朝鮮という監獄の中に監禁されています。川崎さんは、2003年に脱北して以来、もう一度家族と再会する、という一点のみを目標にして生きてきた方です。川崎さんは、家族に危険が及ぶ可能性は十二分に承知しています。川崎さんは、まさに自身とご家族の命を懸けてこの訴訟に臨んでいます。子どもに触れて、肩をたたいて、時には涙を拭いてあげて、けんかをして、笑いあって、泣き合って、励まし合ってという、日本の家族の日常を手にしたいと願っています。

 川崎さんは、提訴会見において、脱北してからの人生を、「おまけの人生」と表現し、ご家族と再会することのみに、その人生をささげてきました。川崎さんがご家族と再会し、「おまけの人生」ではない、川崎栄子さんの本当の人生を歩んでほしいと、弁護団は心の底から願っています。

支援のお願い

 原告の方たちの想いを実現する方法は無数にあると思いますが、弁護士である私たちは、民事訴訟という手段を通じて、原告らの想いを実現しようと考えています。

 みなさまもご承知の通り、私たちは、今後、複数の法律的な論点を裁判所と議論していかなければなりません。弁護士も、裁判官も、誰もが扱ったことのない未知の法律論点ばかりです。学者の先生方にお会いし、法律意見書の執筆をお願いすることも想定していますし、海外における文献調査やその翻訳を行っていくことも考えていますが、それには相応の費用が必要となります。

  原告の一人は、提訴会見において、日本では金正恩を訴えるという自由もあるんだ、と述べました。私たち弁護団も、ぜひその自由を実現していきたいと願っていますが、現時点では弁護団が活動するに際しての実費(弁護士の報酬ではありません。)すら確保できていない状況です。

 このブログをご覧になっているみなさまも、それぞれ問題や悩みを抱え、必死に生活しておられる方ばかりであることは重々承知しております。そのような中、ご寄付のお願いをすることは大変心苦しいところではありますが、みなさまの自由を、ご寄付という形で分けていただけるのであれば、弁護団の一人としてこんなに嬉しいことはありません。

 

銀行名:三井住友銀行

支店名:山本支店(店番号563)

普通口座:3760699

名義:北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会 会計窪田和夫

(弁護団 白木敦士)