北朝鮮帰国事業裁判弁護団

北朝鮮帰国事業について、北朝鮮政府の責任を問う裁判の弁護団です。

10月14日入廷行進・記者会見・報告集会のご案内

明日10月14日(木)の第1回口頭弁論にあわせて、以下のイベントを予定しております。特に、報告集会は参加自由ですので、ふるってご参加ください。

入廷行進

【日時】10/14(木)9:20~

【場所】東京地方裁判所前(地下鉄霞ヶ関駅A1出口~裁判所正門)

【参加者】原告・弁護団・支援者

記者会見

【日時】10/14(木)16:45~17:15

【場所】司法記者クラブ(東京地方裁判所2階)

 *記者クラブ加盟社以外の方は、クラブの許可が必要です。

【参加者】原告・弁護団

報告集会

【日時】10/14(木)17:00~18:00

【場所】法曹会館・高砂の間(千代田区霞が関1-1-1)

【プログラム】

  • 司会:土井香苗HRW日本代表
  • 開会挨拶:小川晴久・北朝鮮強制収容所をなくすアクションの会(No Fence)代表
  • 北朝鮮と帰国者の現状報告:加藤博・北朝鮮難民救援基金理事長
  • 裁判経過報告:福田健治弁護士、山田文明・北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会副理事長
  • 原告団代表挨拶;川崎栄子・NGOモドゥモイジャ(みんな集まろう)代表

 

 

10月14日口頭弁論のご案内(傍聴券について)

ついにこの日が来ました。10月14日、5名の脱北者が、北朝鮮帰国事業の実態とその被害を裁判所の法廷において明らかにします。

当日の予定

当日の流れは以下のとおりです(開始時刻以外は予定です)。

【午前】

10:00~ 訴状等陳述・書証の取り調べ等

10:10ころ~ 弁護団による概要説明

10:40ころ~ 原告川崎栄子さんの本人尋問

【午後】

13:25~ 髙栁俊男法政大学教授の証人尋問

14:10ころ~ 原告榊原洋子さんの本人尋問

14:45ころ~ 原告高政美さんの本人尋問

15:20ころ~ 原告齋藤博子さんの本人尋問

15:55ころ~ 原告石川学さんの本人尋問

傍聴券について

本件は傍聴券交付事件となります。傍聴希望の方は、10月14日9:40までに、東京地方裁判所の玄関脇の傍聴券交付所までお越しください。大法廷での審理となりますが、新型コロナウイルス感染症対策で、傍聴券の数が42枚に制限されており、抽選となる可能性が高いです。あらかじめご了承ください

www.courts.go.jp

2021年8月の報道まとめ

本裁判の報道をご紹介いたします。

2021年8月5日 朝日新聞

www.asahi.com

2021年8月16日 産経新聞

www.sankei.com

2021年8月17日 読売新聞

www.yomiuri.co.jp

2021年8月20日 Human Rights Watch

www.youtube.com

2021年8月26日 Yahoo!ニュース(弁護士ドットコムニュース)

news.yahoo.co.jp

2021年8月31日 Yahoo!ニュース(WoW!Korea)

news.yahoo.co.jp

2021年8月31日 Yahoo!ニュース(WoW!Korea)

news.yahoo.co.jp

2021年8月31日 Le Monde 

www.lemonde.fr

 

外国特派員協会(FCCJ)での会見のご報告

9月7日、日本外国特派員協会(FCCJ)で記者会見が行われ、原告の川崎栄子さんと弁護団・福田健治から、来る10月14日に行われる第一回弁論とそれまでの経緯についてご説明を行いました。 

f:id:fukudan-k:20210914231927j:plain

記者会見の様子

会見のビデオはこちらからご覧いただけます。


www.youtube.com

  まず弁護団の福田から、北朝鮮帰国事業裁判の全体像についての説明がありました。

 今回の裁判は、帰国事業により北朝鮮に渡った後に脱北した5名が、帰国事業を計画・主導した北朝鮮政府に対し、1名につき1億円の損害賠償を求めるものです。

 虚偽宣伝によって騙されて北朝鮮に渡航させられ、出国を許されずにとどめ置かれた行為(家誘拐行為)と、原告の家族が北朝鮮に残され出国を許されず、これによって家族と面会できないこと(出国妨害行為)の2つを訴えています。 

 裁判所は北朝鮮政府が応訴しないと考えているため、弁護団に対して口頭弁論期日前に全ての論点について十分な主張・立証を行うよう求めました。この裁判で主な争点となるのは、次の点です。

  1. 北朝鮮政府は法人格を有しているのか 
  2. 日本の裁判所が本件について裁判管轄を有しているのか 
  3. 本件に適用されるのは日本法か北朝鮮法か
  4. 日本における宣伝行為と、出国を許さず留め置いたことが一連一体の不法行為として認められるか 

 弁護団は、原告の陳述書や北朝鮮帰国事業の経緯に関する研究論文や学者の意見書に基づき、各論点につき根拠を持って主張してきました。

 続いて、原告の川崎栄子さんが、今回の裁判への思いをご自身の体験とともに語りました。

f:id:fukudan-k:20210914231929j:plain

会見で語る川崎栄子さん

 ついに、皆様に提訴の報告をする日が来ました。どんなに大きな不正が行われても、必ず正される日は来るのだということを示す時ではないでしょうか。これまで関わってくださった多くの良心ある方々に、感謝いたします。ありがとうございます。 

 北朝鮮へ行った9万3340人のうち、1800人の日本人妻と6800人の日本国籍保有者が含まれていました。北朝鮮とは何も関係のない人々を連れ込むために、金日成らは謀略を立てました。 

「北朝鮮は税金のない国だよ」「教育も医療費もただですよ」「職業は自由に選べますよ」「住むところも自由ですよ」

 そういう虚偽の宣伝を朝鮮総連が主導し、日本のマスコミも手伝って、日本全国でお祭り騒ぎのようでした。 

 私たちは虚偽の宣伝を疑うことをしませんでした。北朝鮮の現実が、真実が伝えられていたとしたら、誰一人として海に渡った人はいなかったと思います。 

 北朝鮮に渡った方々は、海に渡った途端、迎え入れる人々の薄汚い顔色や水帆らしい格好、灰色の景色を見て、宣伝は嘘だったと気がついたそうです。日本に帰ることを望んだ人は、精神病院に収容されて命を落としたり、処刑の対象となりました。たくさんの日本からの帰国者が政治犯強制収容所に送られ、殺されたり強制労働をさせられたりしました。

 川崎さんは、脱北した時のことを次のように語りました。

 私たちは毎日表現しづらいほどの苦しみの中で生きてきました。そして北朝鮮に飢餓が訪れた時、脱北を決意しました。数100万の人達が飢え死にした中で生き残った私は、私が地獄の様を見ながらもどうして生きていて、正常でいられるのかと自分自身を疑っていました。 

 そしてこれ以上は北朝鮮にとどまる必要ない、命をかけてでも脱北して、命が残った場合は北朝鮮の惨状を多くの人に知ってもらうべきだと思って脱北しました。 

 最後に、記者の方からのご質問を抜粋してご紹介いたします。

Q.北朝鮮の帰国事業の最大の目的は何だったのか?

川崎:朝鮮戦争の時に失われた労働力の穴埋めのためだと考えています。帰国者は差別され、北朝鮮の人々が従事したくない鉱山、林業、農業に従事させられたことは、その証拠です。

Q.北朝鮮は国際法を遵守しない国家と言われている。東京地方裁判所がもし損害賠償を命じたとしても、本当に賠償請求は達成されるのか?

福田:現在の北朝鮮政府がその判決を受け入れ、賠償を支払うとは考えておりません。 

 現状私たちにできることは、判決に基づいて強制的に賠償金を回収することです。アメリカでもオットー・ワームビアさんの事件で同様の判決が出て、ご両親が賠償金を回収するための法的な試みを数々行っています。 

 私たちは同時に、日本政府が北朝鮮政府との交渉を将来的にする際に、その責任をしっかりと取らせる力として判決が働くと考えています。

Q.日本政府や日本のメディアが帰国事業を支援した点について、日本政府や日本の機関を相手に訴訟を起こさないのはなぜか? 

福田:帰国事業には多くの団体が関与している中で、北朝鮮政府のみに絞って訴訟を起こした理由は2つあります。 

 第一に、北朝鮮政府こそがこの事業を計画・遂行した最も責任ある主体だからです。他の団体の関与は、あくまで北朝鮮政府が計画した事業を前提とする副次的なものです。

 第二に、除斥期間の問題です。多くのアクターが関与したのは、1959年から始まった在日コリアンに対する勧誘の部分で、日本の民法では行為から20年経過すると損害賠償権が消滅するとされています。過去に朝鮮総連を被告として2件裁判が行われましたが、いずれも除斥期間を理由に棄却されています。一方、北朝鮮政府の関与は、脱北した時点まで続いており、除斥期間にかからないと考えています。 

Q.北朝鮮政府が出廷しない場合、反論がないということは原告の主張がそのまま認められるのか? 

福田:帰国事業に関する純粋な事実関係の証拠は主張通りの認定がなされるだろうと考えています。今回の裁判で議論になるのは、「日本における宣伝行為と出国を許さない行為が一体の行為として評価されるかどうか」です。これは事実認定ではなく法律の適用の問題ですので、原告の主張がそのまま認められるわけではありません。これまで提出した書証や、10月14日の口頭弁論において、十分な立証活動を行います。

 

 

海外の報道まとめ

この間に、北朝鮮帰国事業裁判について、いくつかの海外のメディアで取り上げていただきました。

ワシントン・ポスト(9月7日)

www.washingtonpost.com

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(9月8日)

www.scmp.com

DW(ドイチェ・ヴェレ)(9月7日)

www.dw.com

8月5日記者会見のご報告

8月5日、司法記者クラブで記者会見が行われ、原告の川崎栄子さんと弁護団・福田から、提訴後の経緯についてご説明を行いました。

 


www.youtube.com

 

 まず、弁護団・福田から、北朝鮮帰国事業の概要、訴訟の概要、提訴後の経緯についての説明がありました。

 特に、提訴後の経緯について、福田から次のような説明がありました。

 2018年8月20日に提訴して以来、これまでに6回の進行協議期日が開催されました。この間、2020年4月に裁判長が交代し、裁判所が設定する争点が増えたことに加え、コロナ禍で裁判所の合議がままならない事態も重なりました。

 このような中、ようやく口頭弁論期日が10月14日(木)10時から開催されることがほぼ確定しました*1

 また、北朝鮮政府への送達は、公示送達により行われます。北朝鮮政府に対して公示送達が行われるのは、弁護団が把握している限り初めてのことです。*2

  続いて、原告の川崎栄子さんから、ご自身の体験談とともに裁判への思いについて、次のようなお話がありました。

 川崎さんは、高校3年生のときに、帰国事業により一人で北朝鮮に渡航しました。北朝鮮に着いた途端に、川崎さんも周りの人も、「地上の楽園」という勧誘が、嘘だったことに気づきました。

 北朝鮮に渡航して3ヶ月ほどの間で、川崎さんは「この国の政治には賛成することも協力することもできない」という結論を出しました。自殺という道も選択肢の一つとしてあり、本当にたくさん悩んだそうです。しかし、北朝鮮では、自殺者は反逆者とされ、家族は死体に触ることもできず、警察が来て死体を持ち去ったら、どこに捨てられたか埋められたかすらわかりません。家族にその人の存在はなかったことにするよう指示が出され、自殺者を出した家族は、家族全員が連れ去られます。このような状況で、自分の命をドブに捨てるわけにはいかないと思い、自殺を思い留まったそうです。

f:id:fukudan-k:20210819102956j:plain

北朝鮮での経験を語る川崎栄子さん。

 また、川崎さんは、日本からの渡航者について次のように語りました。

 大体の日本人は、北の方の鉱山、林業など、北朝鮮の人が行きたがらない重労働部門の穴埋めとして送り込まれました。一番苦労したのは、日本人妻たちです。北朝鮮渡航前は、3年経ったら里帰りができると約束され、「3年くらいなら我慢できるだろう、お子さんたちを手放したくない」という思いから日本人妻たちも北朝鮮に渡航しました。しかし、里帰りは今に至っても実現しておりません。

 日本人妻たちは、植民地支配をしていた日本のスパイとして、収容所に連れていかれ、本当にたくさんの人がその中で死んでいき、もしくはまだその中にいます。今も日本政府には、日本から渡航した帰国者たちに平等に対応してほしいと思っていますが、日本政府は、自国民の救出さえもしていません。

 日本政府がこの問題を扱いたがらないのは、帰国事業が、帰国協定という日本と北朝鮮の間に結ばれた協定により進められたものだからかもしれません。しかし、間違えていたことは、間違えていたと1度認めて、その後自国民を救出すればよいと思います。

  さらに、川崎さんは脱北と裁判への思いについて、次のように語りました。

 帰国船に乗って北朝鮮に渡航した人のうち脱北できた人は、渡航した9万3000人以上のうち、多く見積もっても100人程度だと思います。その人たちが北朝鮮の様子を、外部に、正確に、知らせて、北朝鮮に影響を与えるために努力しなければこの問題は解決しないと思います。

 法律によって裁かれて、初めて公の場所で北朝鮮の実情が明らかになります。この裁判も、ようやく10月14日に口頭弁論が行われるところまできました。国際的にも、帰国事業が間違っていたということを法的に発表する裁判となり、日本で開かれることに大きな意義があると感じています。

  最後に、記者の方から何点かご質問がありました。抜粋してご紹介いたします。

Q. 北朝鮮政府を被告とする裁判も初で、帰国事業についての裁判も初めてか?

福田:北朝鮮政府を被告とする裁判は、弁護団の知る限り日本では初めてです。帰国事業については、過去に朝鮮総聯を被告として大阪地裁で争われた訴訟があります。その裁判は、除斥期間の問題で敗訴という結果になっています。

Q. 現在、北朝鮮に川崎さんの家族はいるか?

川崎:夫はすでに亡くなりましたが、子どもたち4人とその家族、合計12人がまだ北朝鮮にいます。

 一昨年までは1年に1回ずつでも子どもたちが国境で中国の携帯電話を借りてなんとか連絡を取っていました。日本からは手紙を書くこともできますが、全部開封されるため、元気だということくらいしか書けません。航空便、船便を使って品物を送ることもできます。

 しかし、コロナ以降、北朝鮮は海路も航路も遮断したため、手紙も品物も送れていません。子どもたちも国境まで移動できないため、電話もできていません。そのため、現在は子ども達の生存状態も確認することもできず、生きているかさえわかりません。

 Q. 提訴が2018年になった理由は何か?何かタイミングはあるのか?

川崎:この裁判より先に、大阪で朝鮮総聯を被告として裁判がありましたが、時間的な問題(除斥期間)で棄却されました。それを受けて、北朝鮮政府を相手に裁判をしても実現されそうにないと感じ、ずっと悩んでいました。

 しかし、オット・ワームビアさんの事件に対して、アメリカは短時間で解決し、すぐに裁判の結果が出ました。このことを、土井さん(Human Rights Watch日本代表)に話し、日本でもできると思うと伝えたところ、土井さんからできるかもしれないとの返答があり、提訴につながりました。

 Q. 裁判において主権免除について日本ではどう判断されるか?

福田:日本では、対外国民事裁判権法という法律が制定され、誰が主権免除を享受するのかということが国内法上規定されています。この法律の立法担当者の説明によれば、未承認国家には主権免除は及ばないとされます。また、今のところ、裁判所から主権免除を問題にすることは言及されていません。

Q. 口頭弁論期日では意見陳述を川崎さんがするのか?証拠の整理はほとんど終わっているのか?

福田:北朝鮮政府が応訴することは想定されていないため、1回で結審をすることが予定されています。第1回の口頭弁論期日では、弁護団から事件の概要と、提出している主張、書証について口頭で説明を行います。また、原告5名の本人尋問のほか、日朝史に詳しい法政大学の高柳先生に専門家証人として証言していただく予定です。

Q. 勝訴した場合の回収見込みはあるか?

福田:海外では、北朝鮮船籍で登録されている船舶を差し押さえるなど、北朝鮮政府に対する債権回収の様々な試みがなされております。北朝鮮の人権問題に関わる国際的な法律家のネットワークを使いながら、海外での責任追及の進行も含めて検討していくことになると考えております。

 

*1:その後、8月16日付けで正式に期日が指定されました。

*2:公示送達の様子はこちらをご覧ください。

nklawsuit.hatenablog.com